恋の催眠騒ぎ第6話「囚人とシスター」

今日、皆を集めたのは他でもない。先日の怪しき２人組の話じゃ。

追い払う前に去ってしまいましたが、本当に怪しい人物でしたね。

しかし女性はシスターの格好をしておりましたよ。

うむ。じゃが、信用はできん……。

お嬢様のことは、この私めが命をかけてお守りいたします。どうかご安心ください。

なに、葬式みてーなしけた面してんだ？

わっ！

っ！？？

……おやおや。これはどうも。

ん？　今日も美味そうな匂いがするぜ。俺の嗅覚と直感がビリビリと……。この前のお菓子も美味かったからな。

それは嬉しいお言葉です。そうですね。今日はようかんならございますが、いかがでしょうか？

で、でかい……。

！！　何だこの巨大ようかん！　信じらんねー……。

甘味屋、これを一体どこに隠していたと……。

手品というものか？

そんな大層なものではありませんよ。

しかしこんなん食えるなんてラッキーだぜ！

今日、脱獄すんのけっこー面倒だったからな。あのクソ看守、毎回セキュリティコード複雑にしやがって。そんなんしても無駄だっつーの。俺様の手にかかればあんなの……ブツブツ……。

うっめーーーーー！

それはそれは。

ちょっと待て！　どうしてわらわにはないのじゃ！　……ん？　ち、ちがう！　というか貴様、なにやつじゃ！！

そうでした。お嬢様、私から離れないでください。

……あ？　んなビビる必要ねーだろ。あんたらには何もしねーって。あいつがうっせーしな。俺はただおやつ食いに……。

……………。

うげっ……！

あいつとは、私のことでしょうか？

あ、えーっと……お前もこれ食ってみろよ。すっげー美味いんだぜ？

結構です。またこちらにお邪魔しているなんて、ご迷惑ではありませんか。自分の立場をわきまえなさい。

充分、わきまえてるし。だからこうしてコソコソとようかん食ってんだろーが。じゃーな！

あ。逃げましたね。

お待ちなさい！

協力致します。

助かります。

わっ！　卑怯だぞ！　てめーら。

脱獄犯に、卑怯な手も何もありません！

あ、じゃあ俺も卑怯な手っつーことで人質を……っと。

なっ……！　わ、わらわを抱えるでない！　無礼者！！

お嬢様！　ああ、お嬢様がっ！！

いい加減になさーーーーーーーい！！！！！

だってさー……最近、あんた全然来てくれねーし。つまんねーんじゃん。

クリスマスなどで忙しかったのです。けれどそれを理由に、こちらのお嬢様方々にご迷惑をかけるなど……。

あれ？　もしかしてお姫さんに妬いてんの？　へえ……いつも冷静なあんたらしくないと思った……。

なっ、何を言ってるのですか！　そんなはずがありません！！

素直になれば？　素直で従順なあんたが、一番可愛い……。

……や、やめなさい！　いいから牢に戻りますよ。

やだね。まだようかん食い終わってねーし。それに……お姫さんとももうちょっと遊びたいしな。

な、何を言うかっ！　さっさとわらわを離せっ！！

今すぐお嬢様を離さなければ、私は手加減いたしませんよ。

今すぐお嬢様を離さなければ、私もタダでは貴方を許しません！

……ちぇっ……ほら、返すよ。

わっ！

お嬢様っ！

これは面白い……なかなか愉快な恋愛模様ですね。麗しきシスター、そんなに面倒な少年より、私のお店で楽しみませんか？

え？

大人の色香と甘くかぐわしいお菓子、そして気持ちのいい催眠で貴方を幸せな世界へ導きますよ。

甘味屋！　貴様はまた、おなごと見れば……っ！

けけけけ結構ですっ！　失礼いたしますっ！！

え？　あ、ま、待てよ！　俺、迎えに来てくれたんじゃねーのかよっ！？？

くう……ようかん、持っていきおった……！

ようかんならまたお持ちしますよ。それよりも、何だかんだでお似合いのお２人でしたね。もちろん、お嬢様と執事さんも。

ななっ……！？

当たり前です。今日はあの少年のせいで少々気がたちました。甘味屋もお引き取り願えますか。これからお嬢様と２人で……。

２人で？

……さ、お嬢様。アンジールをお持ちしますよ。

ふむ……そうじゃな。行こう、執事。

はい、お嬢様。

……やれやれ。つけ入る隙もないですね。