第38話 吹雪の岩屋
サソリの案内で転生した彼女を探しにきたクモとサソリ。
最初に訪れたのは、人里離れた山奥です。
ゴォォォォ……!
寒い……! 砂漠育ちのオレには辛い……
寝るなサソリ! 寝たら死ぬぞ! いや、吸血鬼だから平気か? どうなんだサソリ
オレが知るわけねーだろ! 心配するなら最後まで心配しろ!
しかし、本当にこんなところにいるのか、彼女は
無視かよ……。確かにこっちから感じるんだから、そりゃ間違いねぇよ
ふん、そこまで言うからには信用してやる
そういや、今って昼間だけど、お前大丈夫なのか?
この吹雪の中だ。太陽が届くわけがないだろう。そんなことより、お前の格好のほうが心配だ
しかたねーだろ、この服しかないんだよ、いろんな事情で。はっくしゅん!
どんな事情があるのか知らんが、誇り高き吸血種とは思えん危機管理能力の低さだな
いちいち鼻につくやつだな、ホントに
そういえば、私は目的地を詳しく聞いていないのだが、我々はどこへ向かっているのだ
ふもとの村で聞いたら、もうちょっと先に洞窟だかなんだか、吹雪をしのげるところがあるらしいんだ
かわいそうに。こんな猛吹雪の中、洞窟なんかに住んでいるのか。さぞ寒いだろう
早く行ってやらねえとな。ずいぶん歩いたから、そろそろ着いてもいいと思うんだが……
おい、あそこに見えているのがそうではないのか?
あ、ホントだ。洞窟っていうより岩屋って感じだけどな
立て札が立っているな。なになに……『女神の眠る岩屋』だと?
へぇ~、こんな極地なのに、ずいぶんロマンチックな逸話があるんだな
でかしたぞサソリ! 女神とはまさに彼女を表すのにふさわしい。彼女は間違いなくこの岩屋だ!
……この岩屋、閉じてるぞ。こんなに寒いし、やっぱ人間のあいつがここに住んでるとは……
やかましい! では聞くが、他に女神と呼ばれるほどの人間をお前は思いつくのか?
いや、そりゃオレもあいつが一番なのは賛成なんだけど……
さぁ考えろサソリ! この岩屋を開ける方法を、彼女を救い出す手立てを!
お前も一緒に考えろよ……っと、雪で埋まっちまってるけど、反対側にも立て札があるな
そちらの立て札に岩屋の開け方が書いてあるに違いない。積もった雪をどけるぞ
ドサドサドサー!
……なんだお前たちは
うわぁ! お前こそなんだよ!? おいクモ、立て札だと思って雪払ったら人間出てきたぞ!
ふん。お前にはこいつが人間に見えるのか。だから貴様は吸血種として落ちこぼれなのだ
そっちの白い髪のが言うとおり、我は人ではない。この地で女神を待つ、しがない鬼だ
オニ……? ってことは、オレたちと似たようなもんか。オレたちも吸血『鬼』だからな
待っているだと!? 貴様に彼女は渡さんぞ!
異形の男。我と媛をめぐって争おうというのか……?
バチバチバチ!
おいおい待て待て! オレを無視したのはまぁいいとして、火花散らす前にまずは話し合おうぜ
ふざけるな! 何年彼女を待ったと思っているのだ、もうこれ以上待てるか!
我も同じだな。やっと媛が目覚める季節が来るのに、邪魔だては許さんぞ
だからストップ、ストーップ! まずは話し合いだって言ってるだろ
実はオレたちかくかくしかじかで……
なるほど。我と同じく、愛しい者を探してここまで……
そっちも大変だな。冬の間は眠っちまう恋人を待ってるなんて
しかし貴様もドジな鬼だ。いつもより早く迎えに来すぎて雪に埋もれていたなどとは
ドジはお互い様だ。我と媛は冬がこの世に生まれる前からの仲。媛が誰かの生まれ変わりなわけがない
冬が生まれる前だぁ? おいクモ、それどれくらい前なんだ?
……け、検討もつかん。この私どころか、すべての吸血種を集めても、こやつほど古い者はいないだろう……
そういうことだ
ってことは、あいつが転生したのはここじゃないのか。振り出しに戻ったな
では、我はここでまた媛を待つとする。縁があればまた会おう、異形の男らよ
それはいいが、またそこに突っ立っていると雪に埋まるぞ
媛の目覚めを近くで待つのだ。その程度は構わぬ
風邪引くんじゃねーぞ
一番薄着のそなたには言われたくないな
言うなよ、せっかく服装のこと忘れてたのに。へっくし!
まったく、とんだ無駄足だった。貴様、本当に彼女を感じているのか?
たしかにこの場所のはずなんだけどなぁ……。ま、気を取り直して次いこうぜ
最初の目的地は、どうやらハズレだったようですね。
クモとサソリは、次はどこへ向かうのでしょう?
なんだこの猛吹雪は! まるで前が見えんぞ!