第37話 待ち遠しくて
草木も眠る深夜。その城には夜な夜な恐ろしい声が響きます。
その声は世にも恨みがましく、さみしげで、耳にした者は
一睡もできなくなるといいます。そう、ちょうどこんな風に……
うーん……ぐぅ~……
サソリ……サソリぃ……
うぐ、ぐぅ……うー……
サソリ……サソリ……サソリ……!
ぅぅぅうるっせー!! またお前かよ。毎晩、耳元でそうやってささやくのはやめろ!
うるさい! 貴様、いつになったら彼女を見つけ出すのだ!
またその話かよ……だから言ってるだろ、まだ感じないって
おかしいではないか! 前世の彼女を看取って、いったい何年になると思っている! もうとっくに転生していていいころだろう
たしかに、そろそろ転生してるくらいの時期だけどさ。ほら、10代前はかなり遅かっただろ? 今回もそんな感じだって
3代前は5年で転生したではないか……
あんなレアケース持ち出してすねるなよ
黙れ! なぜ貴様はそう平然としていられるのだ。彼女がいないというのに、のんきにグースカ眠りおって……!
そりゃ夜だからな。昼夜逆転なだけで、お前もさっきまでグースカ寝てたじゃねえか
ふん、やはりお前のような軟弱者とは価値観が違うのだ
運命でつながった彼女の行方が知れない。そのことで心を痛める私の胸中など、ガサツで乱暴者のお前には分からんだろう!
なんだとぉ!? 自分ばっかり傷付いてる顔でお高くとまりやがって。もう探してやんねーぞ!
貴様、この誇り高き吸血種たる私を脅迫しようというのか!?
オレだって吸血種だ。でも困るよなぁ? 吸血種なのに、あいつの匂いを感じられないクモさんは
ぐ……っ! 貴様、それ以上は許さんぞ
オレがいなかったら、さみしーよーさみしーよー、ってピーピー泣くことしかできねぇんだから
誰も泣いてなどいない! いい加減にしないと、城から追い出すぞ!
別にオレは野宿慣れしてるからいいけどな
野宿だと!? そんな野蛮なことを平気でするようなお前には、彼女を任せることはできん
でもお前一人じゃ、あいつを探すことはできないもんなー?
ここぞとばかりに偉そうな顔をしおって……! いいのか、私が彼女と会えないショックでやけ食いに走っても
なーにがやけ食いだ、女子かお前……ん? 吸血鬼のお前がやけ食い……?
そうだ。老若男女手当たり次第、目についた奴から吸いつくす
お前くらいの吸血鬼がそれをやったら、歴史に残る大事件になるな
私は構わん。貴族というだけで、私は犯罪とは無縁に扱われるからな
そんな事件が起きてる中で野宿してたら、見つかって即『ちょっと署まで』されちまう……
では、改めて聞こう。サソリ、お前は誰の城に住ませてもらっているのかね?
そうやって調子に乗ってるとな、あいつを見つけても教えてやらねえぞ
彼女が遠くの国に転生していたとき、旅費を出しているのは私だ。お前が遠出すると言えばすぐに分かる
ぐぬぬぬぬ……
……よそう。不毛な争いだ
それもそうだな。オレはお前の財力、権力を使って暮らしてる
私は自由なお前に、私のできないことをやってもらう。補いあっている部分をけなしては、争いにもなる
こんなとき、あいつがいたら泣きそうな顔で割って入ってくるんだろうな
目に浮かぶようだ。私とお前がケンカしていると、どこからでも聞きつけて飛んでくるからな
転生を待って、何年になるんだ? そろそろ会いたいよなぁ
まったくだ。どこぞの落ちこぼれ吸血鬼が早く探し出してやらないから、彼女もさぞかしさみしい思いをしているに違いない
おい今なんつった!?
落ちこぼれ、劣等生、ごくつぶし。貴様のような働かない奴を、最近では『にーと』と呼ぶらしいぞ
さっきよりひどくなってんじゃねーか! ていうか、働かないのはお前も一緒だろ!
貴族の仕事は領地の管理だ。お前がうろうろしている町で、犯罪が起こらないように警官を手配しているのは私だぞ
あんまり言ってると探してやらねーぞ! っと……ちょっと待て
どうした。急に天井を見上げて
来た、来た来た来た……! 今感じたぞ、あいつの魂だ!
なんだと!? ということは、ついに彼女を探しに行けるのか!?
あぁ、任せとけ。しっかり連れてきてやるよ
いや、今回は私も行こう。いつもより待たされているぶん、一刻も早く会いたい
大丈夫かよ。お前、昼間は……
夜に行動すれば問題ない。では出発だ。今すぐ
今すぐ!? せめて少しは寝かせてくれよ。準備もいろいろいるし
悠長なことを。では明日だ。明日の同じ時間に迎えにくるからな。では食事に行ってくる
はいよー。って、同じ時間じゃけっきょく夜中……! あーあ、行っちまった
仕方ねぇ、オレも明日は昼寝すっか
こうして、運命の相手の転生を知ったクモと
サソリは、旅に出ることになりました。
仲がいいのか悪いのか分からないこのコンビは、
無事に彼女を見つけることができるのでしょうか?
サソリ……