第46話 思いは花びらの恋文に寄せて
突然咲いた季節外れの桜。
しかし古の神々が姿を消してしまいました。
姫の魂は無事に体に戻れるのでしょうか?
うーん。残念だけど、でもせっかく用意してくれたんだしお花見でもする?
何をバカなことを。花見などしてる場合か! 一刻も早く姫を元の姿に戻さねばっ!!
海狼、私のためにありがとう。ですがどうか怒りをお静めください。花に罪はないのですから
姫……
ひとまずここは酒でも飲んで、肩の力を抜いて別の方法を考えましょうか
う、うむ……しかし……
わーい、お花見お花見ー♪ あ、そこの人も混ざってきなよ~
ん、オレか? お、いい酒持ってんな、ラッキー♪
こら! 保護観察中にお酒なんてダメですからね!?
そうカタイこというとモテないぜ?
お花見とは風流ですね、私も混ざってもよろしいですか?
ええ、もちろんですわ
なんだか人も集まってきて、
にぎやかなお花見が始まりましたよ?
ですが、海狼はひとり浮かない顔をしています。
すまない姫。命がかかっているのに、俺はお前のために何もしてやれない
そんなことはありませぬ、海狼
いや、俺はお前を残して逝ってしまったダメな男だ……
そうだ、死のう。この満開の桜の日、今日は死ぬのにとてもいい日だ
海賊さん、もう死んでるのにどうやって死ぬの?
うう……姫、すまない、姫……! 詫びるために死ぬことすらかなわぬ!
かまいません、海狼。あなたの姿が見えるようになってきました。最期までどうか、抱いていて
恋に燃え上がった若い男女は周りが見えないものなのですね。はあうらやましい
つか、このオニーサンとオネーサンは何を悲しんでんだ?
よければ理由を聞かせてはもらえませんか?
はい。実は……
こうして姫はことの成り行きを
シスターに説明しました。
なるほど、そういうことなら任せてください。私も神の使い、なんとかしてみましょう
さすが麗しきシスター、可能なのですね?
こう、エクソシスト的な何かでなんとか!
よーし俺もこの若い欲望を除霊してくれっていてえー! 蹴るな!
エロイムエッサイムエロイムエッサイム、きええええ!!!
ああっ、私の本体が起き上がって……!
にゃーん、なーごなーご、ごろごろ
おい! 明らかにこれ別の生き物入ってんぞ!?
霊体の受信チャンネルが違うようですね、えいやっ!
ピーガガガ……
ワレワレハウチュウジンダ、チキュウヲセイフクシニキタ
うわあああああ、なんかすごいの呼んじゃったよ!
大変です!! それっもう一度、えいっ!
はううっ!!
む、お姫さんの魂の姿が消えましたね
ん……ここはどこ? 私は……。ハッ、海狼の姿が見えない!?
体を取り戻したせいか、オレの術が効かなくなったようですね
そ、そんな。せっかく逢えたのに……
ガタガタッガタガタガタ!
またラップ音のようですね、む、床に桜の花びらが集まって文字を作っているようですよ? ええと、なになに?
『俺はいつまでもお前の姿を見守っている。強く生きろ。海狼より』
海狼……!!
どうやらあの海賊さん、姿は見えなくてもずっとあなたのことを思っているようですね
そうだったのですが……。海狼、死んでしまっても私のそばにいてくれたんですね。見えなくても……ずっと一緒なのですね
あー、ほら、ハンカチやるから、涙拭けよ! な?
男ってのはさ……、やっぱ惚れた女の涙なんて見たくねえって
うう、はい……海狼……こんな女々しい私でも、いいのでしょうか
海狼……今はまだ涙が止まらないけれど……私きっと強く生きてゆきますね……あなたとの愛を大切に胸にしまったまま――
こうして、お姫さんの目に涙が光るものの
またひとつ、物語は幕を閉じるのでした。
それではまた次の機会に、お会いしましょう。
海賊さんのお願いはどうやら聞き届けてもらえなかったようですね