恋の催眠騒ぎ第23話「アンジールVS大納言!?　神速の洋菓子対決」

まぁ、紫龍の馴染みのお客様とは、貴方の仕えている方だったのですね……。

しかし、本当に立派になって……。私に師事した初めて洋菓子職人と、いまだに弟子たちが噂をしていますよ

師匠……！

ご無沙汰しております。私の噂が師匠のお耳にまで届くとは光栄です！

しかし、甘味屋と一緒とは一体……

弟子である私がご一緒しているのは、何ら不思議ではないと思いますが？

ムム。師匠……このおなごが……。

しかし甘味屋と一緒におるのは危険じゃ！　今すぐ離れた方が良いぞ！

どんないかがわしいことをされるか、分からんっ！

いいえ、お嬢様。私の生業は世の女性方が求めるものを求めし形で与えること。甘ぁいお菓子も、とろけるような時間も、望むがままに

今日はそのような戯言になど、誤魔化されぬわ

では、このお土産の秋の新作「栗きんつば」は、いらないとおっしゃるのですね

何っ!?　そういう事なら早くよこさぬか

お嬢様、すっかり餌付けなさられて……。私の胸の熟れたアンジールが、赤い涙を零してございます

（ゴゴゴッ）紫龍、いけませんよ。こんな小さなお嬢さんまでからかっては

はっ！　師匠がいらっしゃる手前、失礼しました。貴方を思うがあまり、女性を見かけると寂しさを紛らわすため、声を掛けるのが癖になってしまい……

ところでこんな森の深くにまで、何をしに参ったのですか？　お嬢様はまだ日課のお勉強中。用事がなければさっさと去って、深き樹海にてお迷いになられて下さい

あぁ、それはですね……

と言う訳で、師匠のため、初々しい味を探しているのです

それで、洋菓子の作り方を知りたく、この城へ？

女と見れば所構わず声を掛ける、いかがわしい甘味屋にもそのような一面があったのですか

なるほど。おい、執事！　わらわもその初々しいお菓子とやらが食うてみたいぞ、協力してやるのだ

ええ、もちろんお嬢様の言いつけならば何なりと

ただし、今までの積もり積もったきんつば代を、帳消しにして頂けるのであればですが

そう来ましたか。しかし、師匠のためならば致し方ありませんね

ではちょうど３時のティータイム。アンジールを使った洋菓子作りでもご一緒にいかが？

と言う訳で、さぁ、熱い火蓋が切って落されましたね。至高のお菓子対決。

アンジールのファンタジスタ、深き霧の古城の執事。対するは季節の担い手、魅惑の甘味屋オーナー。

司会は私、解説はお嬢さん。さぁ、まいくろふぉんとやらをどうぞ

う、うむ!?　すまぬな、わらわが解説か

なんだか凄いノリじゃが、楽しそうなコトと美味しいお菓子は大好きじゃ！

ここで、執事さん、得意のアンジールを取り出し……。

まぁ！　解説も入れる間もなく開始0.63秒、既に両者自慢のお菓子が仕上がった模様ですね

当然！　当家の執事を甘く見るでないわ

ふふ、腕がなまっておらず、安心いたしました

さぁ、”Tarte aux figues , glace a la vanille”

お嬢様の大好きなアンジールのタルト、バニラアイス添えでございます

私は大納言のタルトを作らせて頂きました。洋菓子というのも、なかなか難しいものですね

では、いざ実食といきましょう

むむ!!　こ、これはぁ！　お口の中に溢れ出る甘い痺れと誘惑の舌触りの綴れ織り……

ふふ、お嬢様。可愛らしい目をとろんとさせて、私のアンジールはそこまで美味でいらっしゃいましたか？

師匠、どうです？　慣れない故の初々しき味、致しますでしょうか？

まぁ、この味は。確かに洗練されたお前の和菓子とは違う、どこかしら至らないような

……しかし、まだ何かが足りない

やはり、違うと？　ふう、師匠の求める初々しい味、なかなか困難なようですね。さぁ、困ったものです。次の宛てとなると……

そう言えば、この近くにさる奇術師が興行に寄っていると聞いております。

興業と言えば様々な所に出入りもしているでしょうし、聞いてみては如何でしょう？

それは確かに、面白いレシピが聞き出せるかもしれませんね

そうじゃ、ならば甘味屋の初々しい菓子作りの旅、わらわ達も付き合うぞ！　いいな、執事

（そうすれば美味しいお菓子をたらふく……じゅるり）

お嬢様、よだれがお垂れになっておいででございます

まぁ、それは賑やかな旅路になりそうですね。ふふ。ではその興業先へと出向きましょうか

我が執事よ、耳を貸せ

え、何ですって？

つまり、同行を装いわらわの為に例のきんつばのレシピを奪うのじゃ！

お嬢様……そんな盗人のような真似を。かしこまりましてでございます