第24話 あなたは私? 私は私? あの時君は若かった
~前回までのあらすじ~
執事とお嬢様を加えた甘味屋ご一行は、
初々しい味のお菓子を師匠に食べさせるために、
奇術師のテントへと向かうことになったのでした。
そこにおられる麗しい貴婦人、秋の実りを乗せた風流な和菓子はいかがですか?
私のことかしら?
おやおや、今宵の貴方は私の奇術よりも、お好みの物がお有りなのですか?
ふふふ。嫌ですわ。お戯れはその辺になさってくださらないと
こら~! 大人の時間はストップじゃ!! わらわ達はそんなことをしに来たのではなーい!
かくかくしかじか
ほう、それでは初々しい味のお菓子をお求めになられて私の興業へ? しかし、私はしがない奇術師……
ポン!
まぁ、紫龍。喋りながら奇術師さんの帽子の中から、栗ぜんざいとお抹茶が。あら、美味しい
(もぐもぐ)
これは丹波和栗と最高級の宇治抹茶。この奇術師なかなか侮れませんね
残念ながら菓子の作り方など知らぬが故、お役に立てるかどうか……
ポポンッ!
こ、これは焼き立てのスコーンにたっぷりのクロテッドクリーム!(じゅるり)
お望みなら、季節のジャムも、お好きな物を出してご覧に入れましょう
なんて便利な術なのじゃ。執事よ、あの奇術とやらをお前も身につけるのじゃ!
ダメです、お嬢様には私のアンジールだけで充分! 奇術師風情の出した物など、おいそれと召し上がらないでください
ふふ、貴方の奇術に皆さん目が離せないよう。少し嫉妬してしまいますわ
奥様、貴方には後程特別なショーをお見せしますので、今宵は私めに時間を……
言わなくても、分っていましてよ
さて、お菓子に限らず満漢全席からフランス料理のフルコースまでご用意できますが。
そうですね、こんな物はいかがでしょう?
ポンッ!
あら、これは何かしら「感応時間6、紅玉の簪と紫龍の間」……?
奇術師、あなたは時空を歪める術をお使いになるのですか? これはまだこれから起こる未来の筈……
そういう貴方も何故か知ってらっしゃるとは。はて、どうでしょうか。
私の奇術をご所望になりに来たのでしょう? ならば、飛びっきりの奇術をご覧に入れましょう!
ぼっふ~んっ!!
……う、けほっけほっ
はわわわわ、煙りの中から怪しい人影がっ
何処です、ここは? 師匠の言いつけ通りに葛を練っていたのに
まあ! もしやあなたは?
師匠! と、そこにいるのは……わ、私!?
ふふ。私の奇術で若きし頃の甘味屋さんを召還して差し上げました。これで初々しい味とやらも解決でしょう
そんな馬鹿げたことが出来るとは
まあ、甘味屋さんにも、こんなに可愛らしい頃があったのですね、うふふ
師匠から離れなさい、そこの何ですか、ちょっと年を取った私!
ムッ、何を言うのです? まだ半人前の状態で
そうそう……紫龍もまだこの頃は今より可愛くて。女垂らしなのは今と変わらないんですけどね(なでなで)
師匠、頭をなでるなど止してください
そう、真実を言えば、若い私の方が、貴方の心の琴線を甲高くつま弾けるのでしょう? 甘く、淫らに……
まあ紫龍ったらいけない子
な、お前こそ師匠から離れなさい! 師匠はもう直ぐ嫁ぐ身なのですよ?
なんですって? あなたは私のくせにそれを易々と受け入れたのですか!?
仕方がないでしょう
バチバチッ
おや奇術を使った訳でもないのに火花が見えますね。た~まや~。
おおっと、これは花火の時の掛け声でしたか
ま、こうなってはもう、例の方法で勝敗を付けるしかあるまい。のう、執事?
お嬢様がお望みとあらば
~お菓子対決ラウンドツー! 「かつての甘味屋VS甘味屋」~
さあ、師匠を巡る熱い戦いのゴングが鳴り響きます。
新たなる至高のお菓子対決、ラウンドツー! かつての甘味屋VS甘味屋、ここにて開幕で御座います!
やめてー、私のために争わないでー(棒読み)
なんと! ゴングも鳴り終わらぬ0.26秒の内に、両者自慢の和菓子を作り終わったじゃと!?
さ、早くその和菓子をわらわにもよこすのじゃっ
いざ実食をお願い致します。私のは、秋の夕暮を意匠とした柿羊羹です
師匠、こちらを先に! 師匠が私に初めて教えて下さった和菓子「きんつば」です
おー、伝家の宝刀「きんつば」じゃ!
では、きんつばを頂きましょう
むむっ、こ、これは!?
確かに、かつて食したあの初々しい味。これぞ私の食べたかった味
師匠、この際私のお菓子を軽々とスルーしたのは忘れるとして、では願いは叶ったのですね?
…………
確かにこの味は私の求めていた味。しかし、所詮、怪しい奇術を使用して成った甘味……何の価値がありましょうか
えー
私は、今のお前の気持ちと初々しさの籠った味が食べたいのです
(師匠……まさかお嬢様の上を行く扱いづらさでは……!?)
甘味屋、少し同情しますよ
あなたに同情されるとは、私も焼きが回ったようですね
何が何やら、私にはさっぱりなのですが
もくもくもく
この煙は……まさか私の体からですか!?
ぽふんっ
むむ、いきなり消えたじゃと!?
おや、やはり完全な召喚とは行かなかったようですね
まぁ、残念。もう少し可愛がってあげたかったのに。ふふ
師匠、今ので充分です! しかしこうなると、また一からやり直しということでしょうか
そうする他、ありませんね
(もぐもぐ)さぁ、次のお菓子にレッツトライなのじゃー!
お嬢様……ドサクサに紛れしっかりと召し上がっておいでとは。
ふぅ。私は今回の旅が終わる時の貴方様の体重が心配です
では、またのショーでお会いできることを楽しみに、本日はお別れと致しましょう
みなさま、ごきげんよう~!
どうやら旅は振り出しに戻ったようですが、
次の目的地はいったい何処になるのやら。
それでは次回
「今宵、荒野の教会にて」
お楽しみに!
ここが、その奇術師がいらっしゃるという場所ですか?