鬼むぅの選ぶ「感応時間」ベスト3

ディレクターの鬼むぅ(島田)です。基本的にこのシリーズの発案は私なので、おすすめでないタイトルはありません。

が、舞台裏の小ネタをさしはさみつつ、苦渋の選択、おすすめてします、この3作。

第3位 感応時間2 ~深い霧に包まれた古城~

不自然なほどかいがいしく足の不自由なお嬢様の世話をする執事、というのは私にとって、エロティックな題材です。

彼女は両親から見捨てられ、まるで幽閉されるように古城で生活しています。

彼女の体の組織は執事の語ること、言うことすべてなのです。

イチジクを食べる音から推察できる通り、彼女は古城で暴君として君臨しています。

気に入らないことがあると、執事に物を投げつけ、当り散らす……しかし、執事がいないと何もできない、可哀相なお姫様でもある。

それを知っているから、執事は彼女の側で、甘い毒として、寄り添っていられるのでしょう。

声のさわやかな様からは想像できないほど、心の底に淀んだ愛情を持っているのが彼でした。

感応時間2 深い霧に包まれた古城(CV. 緑川光)

第2位 感応時間6 ~紅玉の簪と紫龍の間~

この作品の思い出深いところは、実際にかほくと京都まで行ってしまったところでしょうか。佐賀から東京まで走る車内で、本気になったオーナーが見たい! と、あれでもない、これでもないとお話を練ったその夜。

その時まで、オーナーの相手はライバル店の洋菓子店のオーナーで……等複数案が出ている状態でした。途中立ち寄った京都で、歩いた夜の祇園。オーナーはここで育ったんだ! と、突然イメージがふくれ上がり、夏の終わりにかほくに書き上げてもらいました。

なかなかシナリオ執筆は大変だったようで、「もうこんなのはいやだ! シャチとイルカの切ない恋物語にする!」と言われました。哺乳類とはいえイルカで感応時間というのはどうなんだろうか? (ちなみに超音波を使用して催眠をかけるらしい)

弟子である紫龍に、決して自分の思いを打ち明けられない女師匠。数多くの弟子を持つ彼女に許された想いを示す手段――「大事な部屋の名前をあげる」、これだけでした。だから、彼女が紫龍に思いを告げることはありません。恋より、愛より、仕事を選んでしまった彼女の弱さと強さを紫龍は理解し、赦し、そこをこそ愛しています。

初回盤のブックレットを読んでいただけるとよりわかりやすいのですが、紫龍はその肩肘を張った孤高の師匠を愛しているんです。全てを捨ててほしいと思いながら、敬愛する師匠のままでいてほしい、矛盾の想いを抱いています。

恋愛に関しては百戦錬磨を予想させるオーナーですが、他の男に抱かれる師匠を想像して、「いやです師匠……あっでもそういう師匠もイイ! 別の人のものになってるの考えると胸が痛い! でもそれ気持ちいい!」とアブノーマルな妄想をしてそう、と個人的に思っています。紫龍にとっては、師匠が結婚していても、いなくても想いには変わりないですし。

困った人ですね……。

感応時間6 〜紅玉の簪と紫龍の間〜(CV. 檜山修之)

第1位 感応時間7 ~春の賛歌と神隠しの岩屋~

まだ発売もしてないのに販促かよ! ……いえいえ、そうではありません。

感応時間シリーズというのはある意味、冒険の連続です。たとえば4の奇術師、神楽さんが言及されているように、そもそも既婚設定、マダム呼び、企画段階でアンケートを取ったものの、不評きわまる、という感じでした。5にしても、霊ものということで、「ダミーヘッドマイクでこんなに怖いのはイヤだ!」とかほくから言われもしましたね……。当初はもっと恐ろしく、まさに悪霊といったタナトスの兄弟だったのでした。

基本的に天邪鬼なたちなので、皆が「無理」「いやだ」と言うほどやりたくなるのはなぜでしょうか。

反対の中あえてリリースするのは、ずっとチャレンジし続けたい、新人のままでいたい! というひつじぐもスピリッツの表れでもあります。まあ、新人も何も創業1年しかたっていないので、やっぱり新人なわけですけれども(笑)

「確かに、突然目の前から歩いて来た男性からマダムって呼ばれたらいやかもしれない。でも、どんなに自分とかけ離れた主人公でも、みんな映画や本を見て泣いたり笑ったりする。ちゃんと舞台を用意すれば、人は共感するんじゃないかな」

そんな確信もありました。

さて、この感応時間7のテーマの生まれた経緯はは少し変わっています。シナリオ原案を書いていただいた加園さんからお問い合わせフォームで鬼のお話をいただき、せっかくだからということで執筆をしてもらったものです。加園さんの案では、平安時代。人々の怨念が生んだ存在。そんな鬼でした。

ところで、「鬼」で私の脳に浮かぶイメージはなまはげです。なまはげはモンスターというよりも、私的には八百万の神という立ち位置がしっくりきます。

となると、本来神である鬼にふさわしいのは同じ神だろうな、と思いました。そこから連想して、日本の神話や地元の民話をヒントに今回のお話を考えました。

鬼というと、たいてい恐ろしいイメージがついてまわります。悪いことをするとあの鬼がやってきて、取って食うぞ、と大人が子供に諭すわけです。ですが、本作の鬼は人間など興味はないのです。彼はもともと神と呼ばれる存在だったのですが、偉大なもの、底知れなくて不気味なものとして勝手に人間が彼を鬼とあしざまに言うわけです。彼は山を守り、地母神が目覚めるのを待ちます。

これが私の今回の「純愛とはいかなるものか?」というチャレンジだったのです。屈折した愛情しか持てない男たちばかりを企画していたせいか、この鬼は意外にも難産でありました。が、鬼の媛を恋い慕う気持ち、その慕情はキャストの平川せんの熱演により、胸にひしひしと迫ります。

春だけしか一緒にいられないけれど、その間だけは一緒にいようね。という、初々しく、熱く激しい恋の賛歌です。ちょうど年末の企画・執筆だったので、「ああ、寒い、寒い……」と春を待ち望む気持ちで完成しました。

執筆段階で、この「ヒロイン」=「地母神」=「山」というのがなかなか感情移入しづらく、=「山」は消えてしまいましたが、(地母神も春の女神になりました)女神の目覚め=春の訪れというのがここで!? という感じで甘く、そしてエロティックに展開しますのでぜひ聞いていただきたいと思います。

感応時間7 〜春の賛歌と神隠しの岩屋〜(CV. 平川大輔)