第33話 2名様ご来店
骨董品店の店主が戻るまで、
営業マンの案内で骨董を見て回ることになったお嬢様と執事。
営業マンは手慣れた様子で、お嬢様たちに品物を紹介してくれます。
この不気味なお面も骨董品か?
なんだか、こちらをにらんでいるようですね……
それは南の国で呪術師が使っていたお面です。人に呪いをかけるのに使っていたそうですよ
なんですってっ!? お嬢様、離れてくださいっ!
いきなり車いすを引っ張るな! 危ないであろうが
ですがお嬢様、その仮面にあまり近づくと呪われてしまいます。お嬢様が呪われたらと思うと、私は……!
呪いに使っていた、というのもウワサでしかありませんから、そんなに敏感にならなくてもいいですよ。お祓いもしてますし
執事はいつも大げさすぎるのじゃ
しかし、お嬢様に万が一のことがあったらと思うと……
こんなに主人思いな執事に仕えてもらっているところを見ると、お嬢様の人柄が分かりますね
そうか? まぁ、わらわの人徳ということかのう
おや、外から話し声が聞こえるような……
また別のお客さんではないですか?
店主が留守だと教えてやらねば。執事、行くぞ
しかし、聞きおぼえのある声のような気がしますね
店番をしてるのは僕ですから、僕も行きましょう
と、一行が骨董品店の外に出てみると……。
そうだ。私があなたのために和菓子を考えましょう!
え、えっと……
麗しいあなたのイメージにぴったりの和菓子を、あなたのためだけに
そ、その……お気持ちは、とてもうれしいんです、けど……
どうですか? 私と一緒に、甘い和菓子を食べながら、甘い時間を過ごしませんか?
いえ、あの、その……ひぇぇ……
誰かと思えば甘味屋ではないか! また女子をたぶらかしておるのか!
おや、これはお嬢様。こんなところで奇遇ですね
あなたは、近所にある甘味屋の……
ええ。お見知りおき頂いて光栄です
見境無く女性に声をかけるという店主さんではありませんか
がくっ
近所でもウワサになっているのですか、あなたは……
なにか取り返しのつかないことになる前に、ナンパぐせは直したほうがよいぞ
取り返しのつかないこと、というのはたとえば?
甘味屋の女癖の悪さにあきれて、本家に愛想を尽かされる、とか
師匠に愛想を……っ! それは困る!
あなたも来たのですね。今日も本を?
はい。それで、お店に来たら、こちらの方が……
お嬢さんも骨董品店に用が? これは運命かもしれません
そんなわけないだろう。迷惑しておられるのが分からんのか
それで、甘味屋さんは本日はどのようなご用件で?
甘味屋の蔵を整理していたら、掛け軸やら皿やら、よく分からない骨董品が大量に出てきて処分に困ってしまって
なんじゃ。甘味屋もわらわたちと同じ用件であったか
私たちも、城の整理で出てきた骨董品を引き取ってもらいに来たのですが
骨董品店の店主は外出中なのです。こちらのお嬢様と執事さんにも、さっきから待ってもらっているところでして
なんと。ではこの山のような荷物は
店主が戻るまで、どうしようもありません
では、甘味屋も一緒に店を見学するか?
そちらのお嬢さんもご一緒にどうですか?
い、いえ。私は……
彼女は僕のお客です。この本の修繕作業を手伝ってもらっているので、今日も本の修繕でしょう
そうです。今日も、本の修繕を……
修繕とな?
そういうことなので、僕も店内を案内できないのです
取り扱っている品物が品物なので、あまりお客様だけで店内を見てほしくないのですが
そんなことより、興味深いことを聞いたぞ。修繕とは一体なんじゃ
骨董品店にやってきたOLと一緒に、
本の修繕作業をやる、という営業マン。
お嬢様は、その「修繕作業」に興味を持ったようですが……
この壺は、古代中国の王様が使っていたという物です