第42話 海に消えた彼をさがせ!
とある港町。船から下りてくるのは女主人と奇術師です。
せっかくの船旅ですが、どうやら大変だったみたいですね。
思いつきで船旅に出るものじゃないわね。天気予報くらいは見てから出発すればよかった
帰りは気をつけましょう
もし、そこのお方
おや。もしかして我々のことですか?
そうです、異国の方。しばし、私の話を聞いては頂けませぬか
なにかお困りのようね。いいでしょう、話してごらんなさい
ありがとうございます。先ほど船から下りられたご様子。昨日の嵐についてもご存知でしょう
いつ船が転覆するかと思って、久々に生きた心地がしませんでした
その嵐で、私の婚約者が乗った船が沈んだやも知れぬのです
かもしれない、というと
ちょうど嵐の前に海に出て、まだ港に帰らない。というのが正しいのです
彼も水軍の頭領。私にも覚悟はございました
ですが、嵐で航路が狂い、帰りが遅れているだけ。そんな思いも捨てきれず……
婚約者が無事でいるかどうか知りたい、ということね
事情は分かりましたが、我々は船乗りなどではありませんよ
私も、この広い海で見つけられるとは思っておりませぬ。ですから、異国になにかよい知恵がないかと……
なるほど。それはなんとかしてあげたいわね
なぜ私のほうを見るのでしょうか
あなたの奇術を信頼していますもの
もしや、なにかよい手をお持ちなのでございますか!?
……そこまで言われれば、やってみないでもないですが
ぜひとも、お願いいたします!
この奇術は久しぶりなので、あまりオススメはしませんがね
目を閉じてください。ちょっとぼんやりしますよ
信頼はしているけれど、他の女性に催眠をかけるのを見るのは複雑な気分ね
そう妬かないで頂きたいものです。では、ワン、ツー、はい
……なんだか、とても深く眠っていた気分です。ところで、なにをなさったのでございますか?
それは自分の体を見てみれば分かると思いますよ
自分の体……あっ、手が透けている!? それに、ちょっと浮かんでいるような……
私たちにもうっすら見えるけれど、幽霊のようだわ
幽体離脱というやつです。もし婚約者も幽霊なら、これで出会えるでしょう
な、なんと……しかし海狼が、婚約者が生きていたら、どうしたらよいのでしょう
その時は……戻ればよいのでは? なんとかして
そんな無責任な!
ガタガタ! ガタガタガタ!
あらすごい。ラップ音がなるなんて、本当に幽霊だわ
おかしいですね。幽体離脱はまだ幽霊じゃないから、心霊現象は起きないはずなのですが
私にもなにやら分かりませぬが、そんなことより、戻れる方法を教えて下さりませ!
それもありましたか。さて、どうしましょうかね
謎のラップ音に、幽霊になりかけた姫。
奇術師たちはこの問題の山をどう片付けていくのでしょうか?
昨日の嵐はすごかったですね。我々の乗った船も、もう少しで直撃するところだったそうです