第2話 催眠大戦
~前回までのあらすじ~
甘味処のオーナーに啖呵を切ってしまったお嬢様。
一波乱起きそうな気配がいたしますね。
良い! わらわは甘味屋の催眠などにはかからん。わらわを催眠にかけられるのはそこに控えておる執事だけじゃ!
ふ~ん。
……お、お嬢様……。
なるほど、面白いですね。では、少々、大事なお嬢様をお借りしてよろしいでしょうか?
いえ。お嬢様がそのような事はする必要ございません。お部屋へ戻りましょう。今日は、私の特製タルトをご用意致します。その後また、ゆっくりと催眠のお時間を。
ば、ばかものっ! わらわを勝手に担ぐでない!!
お嬢様。あちらに甘い、あま~いきんつばを用意しましょうか?
!
食べてはなりませんっ! お嬢様!!
あまーい、あまーい、きんつば。とろけるようなきんつば。それはお嬢様の舌を包み込み、どこまでも熱く、とろけます。
(じゅるり)
お嬢様?
……きんつば食べたい。
きんつばをよこせ、よこすのじゃ、執事っ!
あ、あばれてはなりません、お嬢様……!
くっくっく。どうやら私の声が体に届くようですね?
これは大好物のきんつばに誘われているだけだ。
そうなのですか? では……。
お嬢様の可愛らしいお口に、甘いきんつばを放り込んで差し上げましょう。ほら。お嬢様の元へ……甘い、香ばしい香りが、漂ってきたでしょう?
香ばしい、香り……。
お嬢様にはたっぷりと、熟れたアンジールをご用意しておりますよ。お嬢様の大好きな、私が心を込めてお作りした、アンジール。今すぐに取りに参りましょう。2人の庭園へ足を踏み入れ、すぐに心地よい世界にお連れします。
……アンジール……アンジール……きんつば……アンジール。
お嬢様。これからきんつばを料理し、できたてのあま~いあんこを……。
お嬢様。いちじくが熟れておりますよ。手折られる日を今か今かと……。
んー……。
ばたり
すぴぃすぴぃ。
え……?
お嬢様! お嬢様!
……ダブル催眠にかけられそうで、頭がショートしたのではないですか?
お前はきんつばで釣っただけだろう。
フフ、兄弟子の往生際の悪さは変わらないのですね。
何だ、そのにやけた顔は。そんなことより……お嬢様を寝室にお連れしなければ……。
んん……? あ、何だ、執事か。きんつばはどこじゃ。タルトも用意せよ!
お嬢様。
ん?
よくぞご無事で……。
ぎゅうっ
く、苦しいっ! 何事じゃ!
私の催眠はいかがでございましたか?
??
いえ、お嬢様は催眠などにはかかっておりませんよ。
でも、現に――。
実力もお嬢様への愛も私のほうが上でございます。
今度CDデビューもいたしますし。
そうだ、お嬢様。サンプルを差し上げます! 私の愛は永遠にあなたのものです!
CDか! ハイテクじゃな。
CDデビューなら私はもうしておりますが? ほら、プレミアがついた初回盤をさしあげます。
……っっっ!?
何と、甘味屋もか……ふんっ。気取った顔でジャケット飾りおって。
サインを差し上げましょう。さらさらさら。
読めん。ちゅーか、いらん。
甘味屋に先を越されるなどと……。
ん? 執事、どうしたのじゃ。顔が青いぞ。いや、白い?
さて。馬に蹴られないうちに、今度こそ私は退散するとしましょうか。
馬などおらぬが?
……しかし残念ですね。美しいあなたを私のとりこにしてみたかった。
はあ。
……。
この貸しはすぐに返してもらいますよ、執事さん。
スタスタスタ
あいつ……もしやいろいろと残念なヤツなのか?
お嬢様。もう甘味屋の声を聞いてはなりません!
は?
声だけでなく、その姿を目に入れるのも許しません。
何を言っておる?
お嬢様の美しい耳に語りかけて良いのは私だけです。
しかしわらわは、きんつばはいるぞ。
そ、それならば、いっそ私がいちじくのきんつばを――。
あ。なんだこれ。
『♪~……さあ、お嬢様の大好きな感応時間の……~』
わっ! な、なんじゃ!?
!? 私の声……? しかもこの台詞……!
心当たりがあるのか?
……。これは、甘味屋の落として行った携帯でしょうか。
しかし何故、私の声が……。
その携帯、わらわがもらう。
え……?
なかなか良いではないか。その声。
あ、ありがたいお言葉です……。
あとで携帯を確かめてみたお嬢様。
どうやら他にも台詞があるようですね。
執事のどんな声が聴けるのか……
それは実際に皆様のお耳で聞いてみてくださいね。
次週は、第三話「お嬢様、日本へ」。
来週も見逃せません!
催眠をかけても、本当に良いのですか? 私は手加減……できませんよ?