第31話 春の目覚め
女神にキスした鬼ですが、
はたして女神は目を覚ますのでしょうか……?
おお、ようやく目を覚ましてくれたか、愛しい媛……。
女神が目を覚ますと、途端にあたりに花が咲き、鳥は歌いだし、
森に暖かな陽が差し込みました。
おお。急に春になったぞ!
さすがは春の女神と言ったところですね。
ほほ。眩しい恋人達ですわね……これで神様達も喜ぶでしょう。
……神様? 奥様は何か知っていらっしゃるのですか?
そういや、どーしてアンタはこんな事してんだ?
確かに気になりますね……。
話せば長くなるのですが……。ある日、神様連合とかいう組合の方が私の所へ来ましたの。
……神様連合ですか……。神の世界もいろいろあるんですね。
そして、『恋愛の達人と名高き貴方に頼みたい事がある』と言われてしまいまして。そんな風に頼まれては、断ることなど……ねえ?
それで、何を頼まれたんですか?
ええ。最近人々が春を迎えるありがたみを失っているから、少しわからせてやって欲しいと……。ですので、今回の筋書きを提案させて頂いたのです。
ふーん。それじゃ、全部神様とあんたが仕組んでたってこと?
そうです。冬が長ければ長い程、春の訪れは待ち遠しい。それと同じく、会えない時が募れば募るほど、会えた時の喜びは格別なものに変わります。
まあ、確かにそれは一理ありますね。
でしょう? ほら、お2人も以前より、盛り上がっていらっしゃるご様子……。
媛……。久しぶりに見るそなたの美しい瞳……心から嬉しく思うぞ……。
私も……あなたに会えて嬉しい……。
なんと愛らしいその唇。その滑らかな肌。離れてからも、媛を想わない日は無かった。ああ、媛……お前も夢の中で我の事を想っていてくれたのか?
……すーすー。
……おや、また夢の中へ戻ってしまったか。では何度でも起こしてやろう。
チュッ チュッ
わー。熱くって見てらんないよ!
早く元の世界へ戻して欲しいのですが……声がかけづらいですね。
まあ、お2人の気が済むまでこちらはこちらで、お茶にしましょうか。
賛成じゃ! 甘味が食べたいぞ。
オレも腹が減ってきたぜ。
それでは……。パチン。
だからお前、それはしつこ……っ!??
奇術師が指を鳴らすと、ご馳走の乗ったテーブルが現れました。
春の目覚めとは、全てを解放するということでしょうか。
まあ。素敵……。
では、春の花を愛でながらティーパーティを楽しみますか。
デザートも用意しましたよ、お嬢様。
うむ。景色は良いし、食べ物も美味しくて満足じゃ!
私もお茶を頂こうかしら。
これは奥様。素晴らしい筋書きでございました。
フフ。貴方との甘い秘め事から得た経験を生かしたのですわ。
それはそれは、光栄でございます……。
にーさん、あの女の人、なんかすごいね。
ええ、神様から恋愛の達人と認められるとは……只者ではありませんね……。
そして、一方の鬼と女神はというと……。
媛。どうして先ほどから、起きたと思ったら、また眠ってしまうのだ。ずっと媛が起きるのを待っていたのだ……もう少し話をしようではないか。
貴方の腕の中でまどろんでいると……幸せで……。夢の中でもずっと、貴方の声が聞こえていました……。
媛……。
ふふ……私は起きていても、夢の中でも、ずっと貴方に会っているのですよ。
おおっ。なんという可愛らしい事を言うのか……!
すーすー……。
フッ。また眠ってしまったか。では口づけを……。
おやおや。マダムの狙い通り、燃え上がった鬼と女神の恋心。
放っておくと、一年中春になってしまいそうですね。
7章、これにて完結でございます。
……うーん……あ……あなたは……。